SPORTIST STORY
BASEBALL
番匠 由芽 マネージャー
YUME BANJO
STORY

本気の舞台で見つけた「支える」責任と挑戦

SPORTISTが東京大学野球部の真髄に迫るインタビュー特集。
高校時代に始めたマネージャーという役割に、大学でも改めて向き合う決意をした番匠マネージャー。「本気の舞台で、もう一度野球に関わりたい」。その思いを胸に東大野球部へと飛び込んだ彼女が見つめてきたのは、勝利を目指して挑戦を重ねる選手たちの背中と、それを支えるマネージャーとしての責任だった。自身も留学と部活動の両立など、挑戦しながら歩んだ4年間。「支える立場」と向き合った日々の先に、彼女がたどり着いた答えとは。

Interview / Chikayuki Endo
Text / Remi Matsunaga
Photo / Naoto Shimada
Interview date / 2025.05.14



「もう一度、野球に向き合いたい」神宮で芽生えた覚悟と挑戦





――番匠さんが野球のマネージャーになろうと思ったきっかけを教えてください。

小さい頃から、テレビで高校野球を見るのが好きでしたが、ずっと「観る専門」でした。ただ、高校入学時に、同じクラスの野球部員に誘われたことがきっかけで、自分も野球に関わってみたいと思い、野球部のマネージャーになりました。高校では3年間マネージャーを務めましたが、もともとは高校でやり切った感覚があったので、大学でマネージャーを続けるつもりは無かったんです。

だけど、大学入学後に初めて神宮球場で東京六大学野球の試合を観戦した時に、すごく心にくるものを感じて。「この本気の舞台でもう一度野球に向き合ってみたい」と思い、再びマネージャーとして野球に携わる決心をしました。

ーー神宮での試合はどういった経緯でご覧になったのですか?

いくつか理由があるのですが、まず高校時代の野球部の先輩が東大野球部に進んでいて、在学中に練習へ来られた際に大学野球についてお話を伺う機会を持たせていただいた経験などから、六大学野球には大学入学前から興味を持っていました。神宮球場自体に行ってみたい気持ちもあったので、入学直後の開幕戦を観に行くことにしたんです。

実際に試合を見て、「プロの球場で大学生が試合をしている」ということにまず驚きました。それに加えて、アナウンスを女子マネージャーが担当しているのを見て、「これはとても貴重な経験だな」と感じたんです。

――じゃあ入部を決めたのは、その試合を観てすぐに?

いえ、実はそのあと1ヶ月ほど悩みました。というのも、私は大学在学中に留学に行きたいと思っていたので、その夢と野球部での活動を両立するのは無理かもしれないと考えたんです。でも、野球部の先輩方と話すうちに、「そういう挑戦もできる場所だよ」との言葉をいただいて、入部を決めました。

最終的な決め手は、やはり「本気の舞台でやりたい」という気持ちでしたね。サークル活動も考えたのですが、やはり真剣な場で自分の力を発揮したいと思い、野球部を選びました。

――東大野球部でのマネージャーとしての活動にはどのような仕事があるのでしょうか?

マネージャーの仕事は、本当に多岐にわたります。野球のプレー以外のすべてを担っているといっても過言ではありません。

たとえば大学とのオープン戦の調整や、神宮球場でのリーグ戦の運営もマネージャーの役割です。私自身が担当しているのは、会計と広報です。予算の立案や資金運用、SNSの運営やオリジナルグッズの作成なども担当しています。

――そのなかでも特に苦労されていることは?

現在、マネージャー15人で業務を分担しているので私はリーグ戦の運営にはあまり関わっていないのですが、会計と広報の仕事量が多く、最高学年になってからは特に大変さを感じています。学業との両立も大きな課題ですね。

また、特に会計は透明性が必要なので、選手や保護者にもきちんと説明する責任がありますが、部員への説明を難しく感じる場面もあります。

――選手の要望と現実の間で、板挟みになることもありそうですね。

まさにその通りです(笑)。会計担当の中でも意見が分かれることはありますが、私はしっかりと積み立てを意識した運営のためにバランスを取ることが大切だと考えています。ですので、「何でも買えばいい」と言うわけにもいかず、要望に対して予算を守る立場としてストップをかけることも多いので、上手く解決する方法を考えなくてはならない場面も多いです。

――その悩みはどのように解決されたのですか?

まずは説明資料をしっかり作ることから始めました。また、今の代の選手たちは要望や意見を積極的に出してくれるタイプなので、それに対して予算的に難しいなど、理由を丁寧に説明するようにしています。

2週間に1回、幹部が集まって行うミーティングがあるので、そういった場で選手の意見を聞きながらこちらの事情も伝えるなど、対話の中でお互いが納得できる形を目指しています。

――マネージャーの業務は、他大学も同じような内容なのでしょうか。

はい、基本的にはどの大学も同じような役割を担っていると思います。

――他大学のマネージャーの方とは試合の調整などで関わる機会も少なくないと思うのですが、親しくなることもあるのでしょうか?

そうですね、六大学のリーグ戦は合同で運営するので自然と仲良くなることも多いです。私自身はあまり運営業務には関わっていないのですが、リーグ戦が終わると毎シーズン、大学ごと・学年ごとに打ち上げのような場があるので、そういった場での交流もあります。

――そういった場で他大学のマネージャーの方と話すうちに、「東大野球部ならではの特色」を感じることはありますか?

マネージャー同士で話していると、感じ方や悩みは意外と共通しているなとよく思います。チームの悩みや課題などについて話しても、「どこの大学も同じようなことで悩んでいるんだな」と感じることが多いので、業務面で東大だけの差を感じることはあまりありません。

ただ、体制として他大学の方が上下関係に厳しい印象はあります。私たちは比較的フラットな関係性で活動しているので、そこは少し違う部分かもしれません。



――東大野球部は、六大学の中では勝てない試合が続くなど苦しい状況に立たされることも多いと思います。そんな彼らがプレーしている姿を、番匠さんはマネージャーという立場からどのように見ていますか?

才能という点では、もしかしたら高校時代の実績なども含めて、他大学の選手たちに劣る部分があるかもしれません。でも、努力の面ではまったく劣っていないと思っています。

東大の選手たちも他大学と同じだけの時間を野球に捧げていますし、「負けても仕方ない」といった甘えは一切ありません。それはチーム全体に共通する姿勢です。

特に今年のチームは、下級生の頃から「勝ち」に強くこだわったチームづくりをしてきました。キャプテンもよく「死ぬ気でやれ」と言いますが、口で言うだけではなく、実際にみんな遅い時間まで残って練習したり、考えながら取り組んだりしているんです。

だからこそ、努力の面で他大学に劣っているとは感じませんし、むしろ「勝つための努力を積み重ねてきたチーム」として、部員たちを誇りに思っています。

――しかしそれだけ頑張っている姿を見ていると、勝てない試合が続くと、マネージャーとしては、よりはがゆさやもどかしさを感じることもあるのではないでしょうか。

そうですね。実はその気持ちの整理の仕方については、今も自分の中で正解が見つけられていないんです。

高校時代にも同じような悩みがありました。試合となると、選手たちとは違って、私たちマネージャーは直接プレーに関われません。その立場から、勝敗に対して自分がどこまで責任を持つのか、という点でいつも葛藤があります。

今年の春のリーグ戦では、1勝もできませんでした。それが私は本当に悔しくて……。でもその気持ちをどう消化すればいいのか、どう向き合えばいいのかは、まだ模索中です。

――それ以外にも、マネージャーだからこそ感じる葛藤のようなものはありますか?

これは高校時代の経験ですが、当時はチームづくりにも深く関わっていたので、「もっとあの時こう言っていればよかった」と自分を責めることも多かったです。試合の結果についても、強く責任を感じていました。だから、東大野球部に入部してからは、「チームの方針や運営は、選手や学生コーチに任せよう」と割り切るようにしました。

マネージャーとしては、チームがうまく機能する「環境づくり」に徹するという意識に切り替えたことで、以前のような葛藤はなくなったと思います。

ただ、やはり勝ち負けに対する気持ちの整理は、まだ自分の中で完全には整理できていませんね。気持ちの落とし所は今も答えが見つかっていない、というのが正直なところです。

――そうした気持ちを抱えながらも、番匠さんはここまでマネージャーという立場で選手たちを応援し続けてきました。その中で、印象的に残っている出来事はありますか?

日々、野球部は本当に多くの方に支えられていると日々感じています。もしかしたらこの応援を実感する機会は、選手以上にマネージャーの方が多いかもしれません。

というのも、マネージャーは日頃から外部の方とやり取りをしつつ部を運営しているので、「こんなにも多くの人に支えられているんだ」と直接感じる機会が多いんです。だからこそ、それを選手たちに伝えるのも、マネージャーの大切な役割のひとつだと思っています。

あとは、やはり神宮球場で掛けられる多くの方からの声援ですね。どの試合であってもファンの方々からの応援は心に響きますし、同時に「なんとかこの応援に応えたい」という思いを常に抱えながら活動しています。

――神宮に来られる方々は、やはりOBや保護者の方、六大学野球ファンの方々が中心ですか?

それに加えて、応援部のファンという方々も結構いらっしゃるんですよ。「応援の雰囲気が好きだから神宮に来ている」という方も多いんです。他大学に比べると、東大は学生の観客が少ないと感じることもありますが、それでも応援してくださる方の存在はとても心強く、励みになっています。

とはいえ、もっとたくさんの方に観にきていただきたいですし、学生の方々にもより六大学野球の魅力を知っていただければという思いもあります。

ーー入学当初の番匠さんのように、「野球に興味があるからちょっと行ってみよう」っていう方はかなり稀なのでしょうか。

実は、東大には野球を観に行く活動をしているサークルや、軟式野球サークルもたくさんあります。学生の母数を考えても、男子が多いので、野球自体に興味のある人は多いんです。

ただ、六大学野球そのものに関心を持っている人は意外と少ない印象なので、そこはちょっと残念だなと思っています。



応援は「エネルギー」 部活動と留学を両立したマネージャーの決意





――先ほど在学中に留学したいと思っていたと仰っていましたが、実際に留学には行かれたのですか?

大学2年の夏から3年の夏までのちょうど1年間、オーストラリアに留学しました。

ーーその間、野球部は一旦休部して?

いえ、そんなに量があるわけでは無いのですがPCさえあればできる業務も結構あるので、お休みはせず、そういった部分を担当させてもらう形で調整しました。試合も中継はほぼ全部観ていましたよ。

――てっきり活動をお休みされていたのかと思っていました。しっかり両立の道を探して留学されたんですね。他にもそういった形を選ぶ方はいらっしゃいますか?

これまで1年間しっかり留学した人はあまりいなかったと思いますが、私のひとつ下の代には、同じように1年間の留学に行った人や、1ヶ月間の短期留学に行った人がいます。少しずつですが、そういったチャレンジをする人も、増えてきている印象です。

――学業との両立、就職活動や大学院進学を考える中での準備など、大学生活のなかで野球部との両立にはさまざまな難しさがあったと思います。そうした4年間を経て、「これが自分の学びになった」「野球部にいたからこそ成長できた」と感じる瞬間はありますか?

正直なところ、まだまだ自分は成長途中だなと思うことの方が多いです。今の時点で「これだけ成長した」と自信を持って言えることはまだ見当たらなくて、どちらかと言うと「もっと成長したい」という思いの方が強いです。

ただ、昔から私は「自分がやりたいと思ったことは全部やる」という性格ですし、そこは今も変わっていません。野球部での活動も、留学も、勉強も、どれも本気で取り組んできたと思っています。そういった意味では、自分の信念を貫いてこれたことそのものに、大きな意味があったのかなと感じています。

――では、マネージャーとしての経験を通して、これからの人生で大切にしていきたいと思うことは見つかりましたか?人生における学びのようなものがあれば教えてください。

私の中では、高校と大学、それぞれのマネージャー経験はまったく異なるものでした。高校時代は、チームにとても近い立場で関わっていたので、自分の発言ひとつひとつがチーム全体に影響すると感じていました。そのため、「自分よりも周りのことを優先して考える」という意識を強く持って行動していました。チーム全体のために何ができるかを常に考えていたと思います。

一方で、大学のマネージャーとしては、野球部の外にいる多くの方とも関わる機会がありました。大学では、部の活動がいかに多くの方に支えられて成り立っているかを実感することが多く、その存在の大きさを肌で感じました。

だからこそ、「自分たちの活動は決して当たり前ではなく、たくさんの方の支えの上に成り立っている」ということを忘れず、日々感謝の気持ちを持って過ごすことの大切さを学んだと思います。

――ここまでお話を伺って、番匠さんは休部無しでの長期留学など、東大野球部の中でも良い意味で開拓者的な存在のように感じました。さまざまな経験をされてきた番匠さんですが、後輩やこれからマネージャーとして野球部に入ってくる方々に対して、今後どのようにバトンを渡していきたいと考えていますか?

まず何よりも伝えたいのは、マネージャーという役割は「マネージャー自身のためにあるのではなく、選手のためにある」ということです。それをいちばん大切に考えて、選手のためにどう動くかを常に考えて行動してほしいと思っています。

そして、マネージャーの仕事は本当に多岐にわたるので、「こうありたい」と思えば、どんな分野にも挑戦できる環境です。会計や広報などの実務はもちろん、留学のようにいちどチームから離れる選択肢も含めて、関わり方にはさまざまな形があると思っています。
だからこそ、「マネージャーとはこうでなければならない」といった固定観念に縛られず、自分がやってみたいことにどんどん挑戦していってほしいなと思います。

ーー最後に、番匠さんにとって応援とは何でしょうか。

「エネルギーになるもの」だと思います。

私は中学ではバスケットボール部の選手として活動していましたが、高校からは裏方としてチームを支える立場になりました。マネージャーとして関わるようになってからは、自分が応援を受ける機会は少なくなったと感じています。

それでも試合中に声援が聞こえてくると、「ああ、自分たちはこんなにも多くの人に支えられているんだ」と強く実感できます。そしてそれは、きっと選手たちにとっても大きな原動力になっているはずです。だからこそ、応援は「エネルギーそのもの」だと思っています。