楽しむ気持ちがプレッシャーを凌駕する。女子野球を担う東ここあの思考と挑戦
女子野球界の名門・読売ジャイアンツ女子チームで、ひときわ輝く存在感を放つ東ここあ。高い守備力と広い視野を武器に、数々の好プレーでチームを支えてきた。しかし、本人が自らの強みとして挙げるのは守備だけではない。打席でも守備でも常に前向きに挑戦し続ける姿勢こそが、東を支える原動力だ。
入団から4年。背番号2のユニフォームを着たファンは年々増え、子どもたちから憧れの存在として名前を挙げられることも多くなった。結果に一喜一憂することなく、自分のやるべきことを積み重ね続ける。その姿勢の中に、東ここあという選手の強さがある。持ち前の積極性を武器に、攻守両面で進化を続ける若き主力選手。常に前向きな姿勢を貫く彼女の野球観、そして自身の成長を支える思考について語ってもらった。
Interview / Chikayuki Endo
Text / Remi Matsunaga
Photo / Naoto Shimada, Ai Tanaka and Yomiuri Giants
Interview date / 2026.05.14
ジャイアンツという大舞台へ。プレッシャーよりも大きかった挑戦への期待

ーー入団直前のインタビュー記事で、東さんは「どんな選手になっていきたいですか」という質問に対して「元気溌剌と笑顔でプレーし、女子野球ならではの動きのしなやかさや美しさを多くの人に見てほしい」と話されていました。今、ご自身はその時思い描いていたような選手になれていると感じていますか。
「元気溌剌」という部分は、女子野球の良さのひとつだと思っています。元気に笑顔でプレーするところが魅力だと思っていますし、自分自身がそうなれているかはまだ分かりませんが、そういった姿を見ていただきたいという気持ちはずっと持ち続けています。
ーー「女子野球ならでは」というのは具体的にどのようなところだとお考えですか。
最近は男子野球と比較されることも少なくなってきましたが、「女子の野球なんて」と思われがちな部分は残念ながらまだあるように思います。でも、守備のプレーなどを見て「女子なのにこんなにできるんだ」と驚いていただけることもありますし、そういう前置きは関係なく、純粋にプレーそのものを観てくださっている方も多い印象です。
自分のプレーを参考にしてくださる方がいたり、「プレーを見て野球を始めました」「憧れています」と言っていただいたり、「プレーを見てファンになりました」と言ってくださるファンの方も増えてきて、とても嬉しく思っています。
ーー昨シーズンと比べても、背番号2のユニフォームを着て応援してくださる方や、タオルを持ってくださる方が増えていますよね。
年々ファンになってくださる方は増えてきています。応援してくださる方が少しずつ増えていくのを実感できるのは、本当に嬉しいです。
球場に来てくださる方の中にも、InstagramやYouTubeで私のプレーを見て、「球場に来ました」と言ってくださる方が少なくないんです。SNS等でプレーを見て興味を持っていただいて、実際に球場まで足を運んでくださるというのは本当にありがたいことだなと思います。
ーー入団当初、今のような状況になることは想像していましたか。
まったく思っていませんでした。当時は読売ジャイアンツという素晴らしい球団でプレーできることをただただ楽しみにしていました。チームを応援してくださる方はたくさんいるだろうと思っていましたが、自分個人を応援してくださる方がここまで増えるとは、正直想像していなかったです。
だからこそ、今自分のプレーを見て応援してくださる方がいるというのが本当にありがたく感じます。
ーー入団前、ジャイアンツという大きな球団へ入るにあたってのプレッシャーのようなものは感じませんでしたか?
もちろんありました。女子野球の中でも特に注目されているレベルの高いチームですので、そういったチームに入る以上、やはりプレッシャーは感じていました。ただ、楽しみの方がそのプレッシャーを上回っていましたね。
ーーもともとプレッシャーよりも楽しみな気持ちが勝るタイプ?
そうかもしれません(笑)。入団後も、例えば試合の中でプレッシャーを感じてうまくいかないようなことももちろんありました。でも、レベルの高い環境でプレーできることや、新しいことにチャレンジできることに対しては、いつもわくわくしています。不安がまったく無いわけではありませんが、それ以上に挑戦できることへの楽しみの方が大きいですね。
ーーそれが冒頭で仰っていた「元気溌剌」という部分に繋がっているのかもしれませんね。
私はその瞬間その瞬間を楽しむ気持ちが強いので、それが自然と表情に出ているのかも。「元気にプレーするね」とか、「楽しそうですね」と言っていただくこともよくあります。自分としても野球を楽しむ気持ちは常に大事にしていきたいと思っているので、その思いが見ている方にも伝わっていたら嬉しいです。
ーー東さんには小さなお子さんのファンが多いという話もお聞きしています。子どもたちにとっても、とても印象に残る選手なんでしょうね。
そういうふうに言っていただけるのは本当に嬉しいですし、自分のプレーが少しでも子ども達の楽しみや希望になっていたらいいなと思っています。
積極性こそ最大の武器。走・攻・守すべてで勝負したい

ーー先ほど、守備について「女子なのにこんなにできるんだ」と驚かれることがあるというお話がありました。東さんといえば守備の評価が非常に高いですが、走・攻・守を総合的に見たとき、ご自身のストロングポイントはやはり守備だと考えていますか。
もちろん守備も自分の強みのひとつだと思っています。ただ、試合に入った時の自分のいちばんのアピールポイントは、プレー全体を通しての積極性だと思っています。
打撃でも守備でも、とにかく積極的にプレーすることを大切にしています。例えば打席に立ったら初球から得点を取りにいく気持ちでいますし、守備でも積極的なプレーを見てほしいなと思っています。
ーーこれまでいろいろ調べたり過去のインタビューを拝見したりする中で、東さんは「守備の人」という評価を受けることが多い印象がありました。ただ、今のお話を聞いていると「守備だけじゃない」部分も見てほしいという思いがあるのかなと。
そうですね。男子野球と女子野球を比較した時に、どうしてもバッティングは差が出やすい部分です。飛距離やパワーに違いがありますし、男子と比較してしまうと、その凄さが伝わりにくい部分はどうしてもあると思うんです。
一方で守備は、もちろん技術や身体能力は必要ですが、打球への反応や動きそのものを見てもらえるので、男子との違いを感じにくい部分。そういったこともあって、守備で評価していただくことが多いのかなと思います。ただ、選手としては守備だけではなく、バッティングも見てほしいという気持ちはありますね。
ーー走・攻・守すべてを高いレベルで磨かなければ試合には出られないし、チームを勝たせる選手にもなれない。そんな責任感のようなものを感じます。
守備だけでも試合には出られないですし、トップレベルの選手になっていくこともできませんからね。
バッティングについても、これまでたくさんの方に指導していただきながら取り組んできました。自分自身、少しずつ成長できている実感もあるので、守備だけではなく、そういった部分にも注目してもらえればと思っています。
ーー先日の大会でも、チームとしては悔しい結果になりましたが、東さんご自身は優秀選手にも選ばれていました。守備だけでなく、打撃面にも強い意識を持って取り組まれていることが伝わってきます。
ありがとうございます。
ーーちなみに、守備の時は、打者が打つ前からどんなプレーになるかをイメージして守っているものなんですか。
はい、まずキャッチャーが構えているコースを確認しながら、自分のポジショニングを調整します。そのうえで、バッターのバットの出方やスイングの特徴などを見ながら、どちらに打球が飛んできそうかを予測しています。
打球が飛んでから反応するだけでは間に合わないことも多いので、とにかく一歩目を早く出せるように意識していますね。打球の方向だけでなく、打球の質や捕球後の動きまで考えながらスタートの切り方を変えることもあります。一歩目の速さがとにかく重要です。
ーー予測が外れてしまうことも?
もちろんあります。この打者ならこちらに打ってくるだろうと考えて、大きくポジショニングを変えることもありますが、実際には逆方向へ飛ぶこともありますし、ボールのコースによっても変わります。
ただ、そういったことも含めて、さまざまなデータを見ながら準備しています。常に同じ位置で守るのではなく、打者の特徴に合わせてポジショニングを変えたりしながらプレーするようにしています。
ーー打者や走者の状況など、試合ではさまざまなシチュエーションがあると思います。そういった状況を想定しながら、日頃の練習にも取り組まれているのでしょうか。
そうですね。私は今年で入団4年目になりますが、試合の中での感覚というのは、この4年間で試合経験を積みながら身についてきた部分が大きいと思うのですが、練習の中でも試合を意識しながら取り組んでいます。緊張感を持ってプレーすることや、一球一球に意味を持たせることは常に意識していますね。
ーースポーツ中継などを見ていると、解説者の方が「試合に出なければ試合勘は養われない」とよく話されています。東さんは、具体的にはどのような部分が練習だけでは身につかないと感じていますか?
試合でしか得られないものはたくさんあると思います。
例えば守備練習であれば、基本的には飛んできたボールを捕ることに集中できますが、試合ではそうはいきません。ランナーの状況もありますし、風向きなどの環境もありますし、さらには外野手の守備位置によって自分のポジショニングも変わってきます。
そうなると、自分のことだけを考えていては守れません。外野の仲間がどこを守っているのかなど、周囲の状況を広く見ながらプレーする必要があります。
試合経験が少ないと、どうしても目の前の打者だけに意識が向いてしまいがちですが、経験を重ねることで周囲にも自然と目を配れるようになります。
打者だけでなく、走者や味方の守備位置、試合展開なども含めて広い視野で見られるようになるので、そういった部分は試合を重ねることで養われるのかなと思います。
これは打撃でも同じですね。ただボールを打つだけなら練習でもできますが、試合ではランナーの状況がありますし、「次に盗塁があるかもしれない」などの駆け引きもあります。そういう時の判断力や状況把握は、やはり実戦の中で経験していかないと身につきません。
ーー学生時代に積む試合経験と、トップレベルの舞台で積む試合経験とでは、やはり違いますか。
やはり今の環境は投手のレベルも高いので、試合の緊張感が違います。接戦になることも多く、なかなか点が入らない展開もあります。そういう試合では、ひとつひとつのプレーの重みが大きくなりますし、周りとの声掛けもすごく大切になります。
特にレベルが高い試合になると、ひとつのミスが勝敗に直結することもあります。学生時代とはそういう部分が大きく違うなと感じています。

ーープロの世界は、たったひとつのミスが勝敗を左右することもあります。これまでのキャリアの中で、今でも印象に残っているミスや、そこから大きな学びを得たプレーはありますか。
一昨年のクラブ選手権ですね。女子野球の全国大会なんですが、その準決勝のかなり緊迫した場面で暴投をしてしまったことがありました。そのプレーで1点を取られて逆転されてしまって……。それは自分の中で今でも忘れられないプレーですね。
試合では本当にひとつのミスで流れが変わってしまいますし、特にトーナメント戦は負けたら終わりです。その経験があったからこそ、普段の練習からもっと緊張感を持って取り組まなければいけないと感じるようになりました。
ーーその場面では、投げる瞬間までミスをするかも、といった感覚も無かったですか?
まったく無かったです。確かツーアウト三塁の場面だったと思うんですけど、送球する瞬間に少し力が入ってしまったんですよね。ボールを放つ直前に「これ、ちょっとまずいかも」と感じた記憶があります。でも、その時にはもう投げてしまっていて……という感じでした。焦りというか、余計な力が入ってしまったんだと思います。
ーー普段はあまり経験しないような感覚だったんですね。
はい、細かい送球ミスはもちろんありますが、ああいう大事な場面でのミスはそれまであまり経験がありませんでした。当時はまだ2年目で今ほど試合経験も多くなく、そういう意味では、経験不足からくる焦りもあったのかもしれません。
ーーその時は当然「やってしまった」という気持ちになったと思います。ただ、試合中は切り替えることも必要ですよね。気持ちの整理は難しくなかったですか。
その瞬間は「やってしまった」という気持ちでいっぱいでした。ただ、トーナメント戦だったので、切り替えるしかなかったんです。
自分のミスを取り返すチャンスは次のプレーしかないので、まずはチームのみんなに謝って、あとは「自分がバットで取り返そう」と考えていました。打撃の状態は良かったので、「何とか自分で返そう」という気持ちが強かったです。
今振り返ると、あの時に切り替えられていなかったら、チームの雰囲気も下がっていたと思いますし、自分自身も次のプレーに集中できなかったと思います。
ーー試合が終わった後も、変わらず気持ちは切り替えられたままでしたか?
もちろん反省はしました。ただ、大会期間中だったこともあって、必要以上に引きずらないようにはしていました。反省すべきところは反省しながらも、変に引きずらないように、次の試合に向けて切り替えることを意識しました。大会期間中に関しては、良い意味でしっかり切り替えられていたと思います。
ーー以前のインタビューで「冷静さを保つことが大切」と話されていましたが、そうした考え方にも繋がった経験だったのですね。
そうですね、あの経験は自分の中でとても大きかったです。そうした経験を経たこともあって、今は以前よりも落ち着いて周りを見ながらプレーできるようになってきました。自分にとって苦い記憶ですが、同時に大きな学びになった出来事でした。
「冷静に周りを見られるようになった」というのは、自分自身がこの4年間でいちばん変わったところかもしれません。
最初の頃は、ヒットを打ったらすごく喜んで打てなかったら落ち込んでといった感じで、感情の起伏がかなり大きかったんです。もちろん今でも結果が出れば嬉しいですし出なければ悔しいんですが、その波が大きすぎると選手として安定しないなと思うようになりました。
なので、今は良い時も悪い時もできるだけ一定の状態を保てるように意識しています。まだまだ難しいですけど、そこは頑張っている部分ですね。
結果が出ない時こそ「変えない」。入団3年目に辿り着いたメンタルとの向き合い方

ーー以前「上手い選手ではなく、試合で結果を残せる選手になりたい」と話されていましたが、「試合で結果を残すことの大切さ」を強く感じたプレーや試合はありますか。
印象に残っているのは、2年目のクラブ選手権の決勝戦です。相手も強いチームだったので、ずっと緊迫した試合展開だったんですけど、ワンアウト満塁のピンチの場面があって。
そこで、難しい打球だったのですがゲッツーを取ることができたんです。そのプレーでチームの流れが変わって、最終的に逆転勝ちすることができました。その時に、「本当にワンプレーで試合は変わるな」と実感しましたね。
ーー先ほどはエラーひとつで流れが変わるというお話がありましたが、今度は逆に、ひとつの好プレーが流れを引き寄せた経験だったんですね。
エラーひとつで流れが相手チームにいってしまうこともありますし、逆に良いプレーひとつで流れを引き寄せて試合に勝てることもあります。そういうところも野球の面白さだと思います。
ーー現地にはSNSなどで切り取られたプレー映像だけでは分からない魅力がありますね。ひとつのプレーの前後にどんな流れがあったのか、どんな空気だったのかというのは、実際に試合を見ないと感じられない部分だと思います。
たしかに。よく野球は「流れのスポーツ」と言われますけど、本当にそうだなと思います。
ピンチでミスが出ると、そのまま連続失点につながることもありますし、逆にひとつのプレーをきっかけに、それまでチャンスを作れなかったチームが一気に流れを掴むこともあります。だからこそ流れはすごく大事だなと思いますね。
ーーゲッツーというプレーも、当然ひとりでは完成しませんよね。
はい。その時のゲッツーも、自分ひとりではなくチーム全員で完成させたプレーだと思っています。だからこそ、ゲッツーが取れた時のチームの盛り上がりはすごいですし、ベンチも含めて一体感が生まれます。あの瞬間は本当に嬉しかったですね。
ーー見ている側も盛り上がります。
そうですね(笑)。ゲッツーが決まった瞬間は、やっぱり「よし!」となりますし、球場の雰囲気も変わります。そういう雰囲気が試合の流れを変えることもありますし、その後に逆転につながったりすると、より印象に残りますね。
ーーただ、そういったビッグプレーは毎回再現できるものでもないと思います。一球ごとに状況も違いますし、同じ場面は二度と来ない。その中で少しでも良いプレーを増やしていくために、具体的にはどのようなことを意識されているのでしょうか。
守備も打撃もそうですが、試合の良し悪しは結局自分の気持ちの持ちよう次第なところもあると思っていて。特に打撃では、試合になるとどうしても力が入ってしまうんですよね。もちろんリラックスしようとは思うのですが、実際には緊張しますし、自然と力も入ります。
なので、練習ではあえて自分で緊張した状態を作るようにしています。力を入れた状態でスイングしたり、その中でも自分のスイングができるかを意識したり。試合に近い状態を作りながら練習するようにしています。
練習では力を抜いて打てても、試合で力が入った瞬間にできなくなってしまったら意味がないので、普段からそういった状況を想定して取り組んでいます。
ーー意図的にプレッシャーをかけながら練習しているんですね。
そうです。守備でも同じで、試合では正面の打球ばかり飛んでくるわけではありません。いろいろな方向の打球がありますし、さまざまな状況が起こります。
だから練習でも、いろいろな打球に対応できるようにしています。常に同じ形で練習するのではなく、さまざまなパターンを試しながら、自分の引き出しを増やしていけるように。試合でどんな打球が来ても対応できるように、練習の中でいろいろ試していますね。
ーーそういった考え方は、どなたかに教わったものなのでしょうか。それともご自身で見つけたもの?
打撃については、今の監督である隠善さんからのアドバイスが大きかったですね。試合ではどうしても力が入ってしまうので、そのことを相談した時に「練習から力を入れた状態で打ってみたらどうか」と言われたんです。その状態でも自分のスイングができるようになれば、試合でも対応できるようになると。
それを実践するようになってから、変わりましたね。自分自身でも手応えを感じています。
ーーなるほど、「試合では力が入る」という前提で練習するという発想なんですね。
私も最初は面白い考え方だなと思いました(笑)。
ーー守備面ではいかがですか。
守備ではグラウンド状況を意識しています。試合の後半になるとグラウンドも荒れてきますし、イレギュラーバウンドも増えてきます。なので、常に整備された綺麗なグラウンドだけで練習するのではなく、あえて荒れた状態のグラウンドで練習することもあります。その中でどう前に出るか、どう対応するかということを意識しています。
ーーたしかに、実際の試合でも後半になるほど荒れた状況は増えますよね。
どれだけ整備されていても、綺麗な状態なのは試合の最初だけ。試合が進むにつれてグラウンドの状態は変わっていくので、それに対応できるようにしておかなければいけません。だからこそ、練習からそういった状況を想定しています。
ーーということは、試合終盤になると守備のプレッシャーもかなり大きくなってくるのでしょうか。
そうですね。特に接戦の試合では、後半になるほど緊張感は高まります。
ただ、自分の場合は最初の打球が一番緊張するかもしれません。最初に飛んできた打球をしっかり処理できるとその後は比較的落ち着いてプレーできるんですが、なかなか打球が来ないまま終盤になって、大事な場面で最初の打球が飛んでくるとやっぱり緊張してしまいますね(笑)。
ーーそれは想像しただけでも緊張しますね。
ただ、「やばい」と思ってしまうと本当に体が動かなくなってしまうので、そこはなるべく緊張しすぎないように。あまり余計なことを考えずにプレーできている時の方が体は自然に動きますね。
ーーそこも「冷静さを保つこと」が大事なんですね。
試合に入る前の準備として、気持ちを整えることも大切だと思っています。年々、そういった準備ができるようになってきましたし、試合の中でも落ち着いてプレーできる場面が増えてきました。
ーー野球はメンタルスポーツだと言われますが、まさにそういうことなんでしょうね。
本当にそうですね。「やばい」「失敗したくない」と思い始めると、体が思うように動かなくなってしまいます。これは打撃でも守備でも同じです。ここまで野球を続けてきて、気持ちの状態がプレーに与える影響はすごく大きいと感じています。
ーー以前も「本来の自分のプレーをすることが大事」と話されていましたよね。それはつまり、「余裕を持ってプレーできる状態を作る」ことが重要ということなのでしょうか。
そうなんですけど、でも今は「自分の力を100%出そう」みたいなことは、あまり考えないようにしているんです。試合では思い通りにいかないこともありますし、毎回100%のプレーができるわけではありません。
だからこそ、まずは自分がやるべきことをしっかりやることが大切。自分の力の8割をしっかり発揮できれば十分だと思っていますし、その積み重ねの先に結果や活躍があると思うので、まずは自分の役割を果たすことに集中するようにしています。
そう考えるようになってからは、気持ちの面でもだいぶ楽になりましたね。
ーーそれでも結果が出せない時は、どうするのでしょうか。
周りの方にアドバイスを求めます。監督やコーチ、チームメイトに相談することもありますし、いろいろな人の意見を聞く機会を増やすようにしています。
ただ、結果が出ないからといって、自分の軸そのものを大きく変えることはあまりありません。調子が良い時も悪い時も、できるだけ同じように取り組んでいます。
ーーそれは簡単なことではないですよね。
そうかもしれませんね。でも、結果だけを見て大きく変えてしまうと、自分が何を信じてやっているのか分からなくなってしまう気がするんです。なので、周りの意見は取り入れながらも、自分のやるべきことは続けるようにしています。
ーー結果が出ずに悩んでいる選手はたくさんいると思います。特に女子野球を頑張っている学生の皆さんに声をかけるとしたら、どんな言葉を伝えたいですか。
野球って、よく「3割打てれば一流」と言われるスポーツなんです。
10回打席に立って3回しか打てなくても評価される世界なので、逆に言うと打てないことや結果が出ないことは誰にでもあるってことなんですよ。だから、結果が出ない時も「そういう時期もあるよね」くらいに考えていいと思っています。
もちろん悔しいですし、落ち込むこともあります。でも、そこでふてくされたり、練習をおろそかにしたりするのではなく、結果が出ない時も変わらず自分がやるべきことを続けることが大事だと思います。
野球は自分ひとりでやるスポーツではありませんし、相手投手やチーム状況など、自分ではコントロールできない要素もたくさんあります。だからこそ、自分自身がやるべきことは変えずに続けることが大切なのかなと思います。
我慢の時間も必要ですが、続けていればいつか結果はついてくると思っています。
ーーそういった考え方は、昔から自然と持っていたのでしょうか。
いや、そんなことはないですよ。私も2年目までは、結果が出なければとにかく練習量を増やすという考え方でした。課題を整理するわけでもなく、とにかくバットを振る。結果が出ないからさらに練習するといったことを繰り返していた時期もありました。
でも、それだけではメンタルも安定しませんし、身体も疲れてしまうんですよね。もちろん練習すること自体は大切なんですけど、ただ量を増やせば良くなるわけではないんだなと感じるようになりました。
それに3年目でやっと気付いてからは、周りの方のアドバイスを聞いたり他の選手の考え方を学んだりしながら、自分で考えて実践することを意識するようになりました。ただやるだけではなく、考えながら取り組むことが大切なんだと思います。
ーー若いうちにその答えに辿り着けたことも、今後の大きな糧になりそうですね。
もっと早く気付けても良かったんですけどね(笑)。今振り返ると、1年目や2年目の成績が特別悪かったわけではないんです。でも、少し結果が出ないだけで気持ちが沈んだり、自信を無くしたりすることがよくありました。
それって今考えると、すごくもったいなかったなと思うんです。結果が出ないこと以上に、自分自身の気持ちが大きく揺れてしまうことの方がもったいない。
そう思うようになってからは、さっき話した「結果が出ない時でもやるべきことを変えずに続ける」ということを、より強く意識するようになりましたね。
応援とは、「野球を続けるひとつの理由」

ーー少し話は変わりますが、「女子選手」や「野球女子」という言葉はSNSなどでもよく使われる表現です。そうした呼ばれ方に対して複雑な思いを感じることはありませんか?
うーん……難しいテーマですよね。もちろん野球選手と言うと男性選手を思い浮かべることの方が現状多いのは理解できますし、その言葉自体を否定したい意図はありません。
ただ、自分たちのように競技として本気で野球に取り組んでいる選手たちと、「少し野球をやっている女性」というイメージが一緒に見られてしまうことに対しては、正直に言うと少し違和感を感じる部分もあります。
だからこそ、自分自身はプレーを見てほしいという思いが強いですし、発信をする時も、かっこいいプレーや競技としての魅力を伝えたいと思っています。
見た目やイメージだけではなく、自分たちのプレーを見てファンになってくださる方が増えたら嬉しいです。これは私だけではなく、多くの女子野球選手が感じていることだと思います。
ーーさまざまな応援の形があることをふまえたうえでも、とても難しい部分だと感じていて。選手自身はどのように感じているのかと思っての質問でした。
応援してくださる方が増えること自体は本当にありがたいことですし、推し活のような形がきっかけで興味を持っていただくことも嬉しいんです。ただ、選手としてはやはりプレーを見てほしいという気持ちがいちばん強いですね。
自分たちのプレーや競技としての魅力を知ってもらったうえで応援していただけたら嬉しいですし、そのためにもまずはプレーを見てもらう機会がもっと増えてほしい。私たち自身が変わらず競技に向き合い続ければ、その思いも少しずつ伝わっていくのかなと思います。
ーー今、東さんが野球選手として課題だと考えているのはどんなところなのでしょうか。
自分自身のプレーをレベルアップしていくことはもちろん課題なのですが、それ以上に女子野球の認知度の低さという部分が大きな課題だと思っています。
もちろん選手としてレベルを上げることは大切です。でも、どれだけ良いプレーをしても、それを見てくださる方がいなければ競技全体の盛り上がりには繋がらないと思うんです。
だからこそ、自分自身のレベルを上げることと同時に、女子野球をもっと知ってもらうことにも尽力したいと思っています。
例えば自分の守備動画をきっかけに女子野球を知っていただいたり、「試合を見に行ってみよう」と思っていただいたり。そういうきっかけを少しでも増やしていきたいですね。
自分のプレーのレベルを上げることと、女子野球を広めていくこと。その両方が自分にとっての大きな課題だと思っています。
ーー出前授業などで子どもたちと接する機会もありますが、そうした活動を通しても、まだまだ女子野球の認知度が高くないと感じる場面はありますか。
あります。「読売ジャイアンツに女子チームがあったんだ」と言われることはまだまだありますし、そもそも女子野球自体を知らない方も多いと思います。チームの名前は知っていても、実際にどんなプレーをしているのかまでは知らないという方も多いですね。
だからこそ、自分の守備動画を見てもらったり、ファンの方がSNSに投稿してくださったりすることで、「女子はこういうプレーをするんだ」と知ってもらって、さらに発信をきっかけに、実際に球場へ足を運んでくださる方に増えて欲しいんです。
現時点では女子選手はまだ野球専業でやっていけるだけの環境にありません。だけど、私は女子選手がプロとして、専業でやっていける女子野球にしていきたいと考えています。だから今が頑張りどころですね。
女子野球をこれからの子ども達が職業として憧れられる仕事にするために、女子野球の面白さや魅力を、プレーを始めとしたいろいろな形で伝えていきたいと思っています。
ーー女子野球を応援するために球場に足を運んだり、ネットやSNSなどを通して声を届けてくださるファンの方も多数いらっしゃいます。東選手にとって、そんなファンの皆さんはどのような存在ですか。
私にとってファンの方々は、エネルギーのような存在だと思っています。球場に足を運んでくださったり、応援してくださったりすることに力をもらっていますし、応援のおかげで普段以上の力を発揮できることもあります。
それだけではなく、「東選手のプレーを見て野球が好きになりました」とか、「野球を始めました」と言ってくださる方の声も力になります。特に、女の子たちが自分のプレーを見て野球を始めてくれたり、女子野球を知ってくれたりすることは、本当に嬉しいですね。
ーー最後に、東選手にとって応援とは何でしょうか。
私にとって応援は、自分が野球を続けるひとつの理由です。
周りの人の応援がなければ今私は野球をやっていないと思いますし、自分がこれからも野球を続けていきたい、広めていきたいと思えるのも応援があるからです。
これまで受けた応援や、今周りで応援してくださっている方の存在があって今の自分がいると思っているので、その方々に対する感謝やいつか恩返しをしたいという気持ちを胸に、これからも女子野球を盛り上げていきたいです。
